えりあし

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『壊れた恋の羅針盤』個人的解釈と感想

銀座博品館劇場にて『壊れた恋の羅針盤』、観劇してきました。

おおよそツイッターで話したことのまとめなのですが、劇中の物語にも触れたくて改めてブログ記事で起こします。なので、ネタバレ注意です。

 

 

まず私がどうしてこの舞台を観に行こうと思ったのかと言うと、演出が錦織一清さんだからです。

2013年夏に錦織さん演出・出演の『熱海殺人事件』を観劇してから私は錦織さんのファンになりました。錦織さんの目から見える世界に興味津々です。えび担なので自ユニを追っているとよく錦織さんと出会うので有難いです。錦織さん関連は今までにオダサク、出発、イットランズ、新春JW、広島を観劇しております。

私はジャニーズ舞台における脚本の所謂「あてがき」と「役と本人との投影」に大変な魅力を感じています。役だけ・劇だけ・本人だけに投影するのではなく、役と劇と本人達、それぞれを往復することで深く掘り下げて考えることが出来るので、ひとつのことに集中しきれない私にとってとても有難いです。

主演であるふぉ〜ゆ〜を観るのは今回が初めてです。滝ちゃんねるをちょこちょこ見たことあるくらいで、本人達の詳しい経歴やグループとしての歴史は浅くしか知らないので、劇の役と合わせて想像を交えつつ楽しませて貰いました。

 

あらすじは公式HPにもありますが、「吐いた嘘が嘘を呼ぶドタバタコメディ」です。

舞台上はスウィートルームの一室で固定、セットチェンジはありません。そしてストレートプレイ。 室内も下手袖には部屋の外に続く扉があるという程なので、人の出入りは下手が主ですね。上手袖の奥にも部屋がある設定で、そこから上手に大きなガラス扉とバルコニーがあってそこに繋がっています。

 

数字と元素のみを生きがいにしていたアンリが大手製薬会社の令嬢カトリーヌに一目惚れ、一般人のアンリには到底手が及ぼないことからまずはとにかく近付くためにもと、なけなしのお金を叩いてスウィートルームを借り、そのホテルの御曹司と嘘を吐くことでカトリーヌとの接点を繋ぎとめようと嘘の設定を固めていきます。アンリが数字と元素以外に興味を抱いたことに驚き従兄弟のルベールはその恋路を応援するといい、劇作家のシャルルも計画に誘う。なので本編はこの三人が主な主犯として一緒にいることが多いです。が、終盤に向かってのレオの巻き返しがすごくて、観終わった後には「四人が主演の舞台だった」と素直に思えました。

 

 

 

錦織さんとイットランズとストレートプレイ

パンフレットで錦織さんは、昨年唯一演者として舞台の上に立った『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー〜パパと呼ばないで〜』について(明確な作品名は出していませんが)触れつつ話を進めていきます。「日頃から嘘つきな俺の方がぴったりなのでは?」というコメントに、出たかったのかなぁニッキさん、なんて勘繰りもしてみたり。

イットランズでは出演者だった錦織さんが、今回は裏方として同様の設定のドタバタコメディの演出を手掛けるのですが、イットランズ以外のコメディ舞台を知らない私としてはどこもかしこも、わーんイットランズ!!><と楽しすぎた昨年の秋冬を思い出して恋しくなったりしていました。

ステージセットは部屋の一室、バルコニーに続く大きな窓とそれをすっぽり隠せる大きなカーテン、舞台の袖から\ドンガラガッシャーン!/と物が壊れるような音がして、\STAP細胞は、あります!/ *1 これはただの錦織演出でした。

前回のコメディ作品では出演者だった錦織さんが今回は演出家として、舞台上ではない場所から作品を作っていく。演者を経験しての裏方。その在り方の珍しさは脚本の池田さんも語っていますが、自分の目で観た劇がまた別の劇で生かされている様を体感できて、なんだか嬉しかったです。表が裏に、裏が表に生かしていけるのは、どちらの立場でも確固たる地位を築いてらっしゃる錦織さんならではですね。

 

 

M.ガブリエルのフランスコメディシリーズ

今作は四人の若い男性が対等に主役であることが大事にされていて、その条件に該当する既存の戯曲がなかったことから、作品の脚本家であるM.ガブリエルが書き下ろすこととなったそうです。

M.ガブリエルは脚本家演出家の池田政之さんがフランスコメディを書く際に使うペンネームです。

池田さんの過去の脚本は知った作品だとジャニーズWESTの「なにわ侍団五郎一座」ですかね。M.ガブリエルクレジットの作品はこの『壊れた恋の羅針盤』が三作目だそうで、過去二作のタイトルは『シャルルとアンヌと社長の死体』『ボクはヒロイン』。

この経歴を読んで「ん?」と思わず目が留まりました。「シャルル」は劇中辰巳さんが演じる役名と同じなのです。以下あらすじの引用。

 パリに現代の切り裂きジャック事件が横行している頃・・・・・・。劇作家志望のシャルルは、弟と劇場の社長秘書であるアンヌの手引きで脚本の売り込みにやって来る。だがその日は社長にクビが言い渡される会議の日。そうとは知らずやってきたシャルル達を待っていたのは社長の死体だった!

ストーリーから察するに一作目の『シャルルと~』の主役は劇作家志望のシャルルです。『壊れた恋の~』での辰巳さん演じるシャルルは、越岡さん演じる俳優ルベールから「売れっ子劇作家」として福田くん演じるアンリに紹介されます。シャルルが脚本を書いて当たった作品の主演はルベールで、シャルルはルベールの羅針盤占いで作品が当たるかどうかをルベールに見て当てて貰ったことを恩義に、ルベールと共にアンリの恋路を後押しすることになります。

ちなみにニ作目の『ボクは〜』は一作目の続きらしく、けれどストーリーにシャルルの名前はありません。

一作目では劇作家志望だったシャルルが、一作跨いで売れっ子劇作家になったこと。これは実際のふぉ〜ゆ〜の活動とは関係がないですが、一作目『シャルルとアンヌと社長の死体』と今作『壊れた恋の羅針盤』は設定が繋がっていると推察できます。

 

 

平等な四人主演

物語の始まりはアンリの一目惚れ、それに目をつけたルベールがシャルルを巻き込み、ルベールのファンであるレオも加わって……と、事の始まりはアンリからですが、皆それぞれ等しく重要な役割を担っています。池田さんも仰るように、単に四人の男性が出る物語ならもっと責任や出番の偏りが出たと思いますが、本当に見事に四人主演の物語でした。

 

 

  • アンリ

アンリって話の主軸ではあるけど、カトリーヌへの恋に対して自分自身では特に何もしてないなって思いました。終盤でシャルルが「アンリは嘘を吐いていない。僕らの計画に乗っただけ」と嘘が嫌いなカトリーヌに向かってアンリの弁明をするんですけど、アンリはあくまでルベール達の計画に乗っかっただけで、そう、嘘は吐いていない。ということはつまりアンリは、カトリーヌのために能動的に何か行動を起こした訳ではないんですよね。結果的にはお互い一目惚れ、三流紙にしか掲載されなかった論文を評価されて、恋も仕事も手に入れますが、それはどちらも手に入れた、勝利を掴んだ、というより、うまく見つかったと言った方が個人的にはしっくりきます。

ふぉ~ゆ~をぱっと見たときに、こういう役が福田くんにあてがわれたのはなんとなくわかります。それは福田くんが何もしない男といいたいのではなく、アンリって主人公なんですよね。周りを巻き込んでしまう、物語の起点となる人。少年漫画では結構そうだと思うんですけど、主人公って平凡な人が多いですよね。それでも物語は最終的には主人公・アンリに帰結してくるんです。福田くんの主人公力、今後も気にしていきたいです。

 

  • ルベール

ツイッターでは散々「ルーベル」と打ち間違えていてすみませんでした…。

ルベール越岡さんは所謂クズです。売れっ子俳優だったにも関わらず、自身のスキャンダルのせいで仕事を干されてしまい、その挽回を図るために自身で劇を作ろうとし、その脚本家に売れっ子であり自身に恩を抱いているシャルルを起用。そのタイミングで従兄弟のアンリから身分違いの恋という実にドラマティックな話を耳に挟んだことから、今回の嘘計画を自身の劇に生かすためにあくせくと働きます。

役としてはイットランズで錦織さんが演じたデイヴィッド*2に当てはまります。自分の出世のために嘘を吐き、周りを巻き込んでいったデイヴィッド。デイヴィッド一人にスポットを当てるとものすんごく理不尽でわがままで自己中心的なイヤなやつ、なんですけど、錦織さん演じるデイヴィッドには不思議とネガティブな感情を抱かないんですよね。嘘を吐くことで自身にその代償が返ってきたり、女装までしたりと、慌てふためくさまがただただ面白可笑しくて、どこか愛しくも感じられるようなキャラクターでした。

イットランズでは嘘を吐く錦織デイヴィッドが主役でしたが、羅針盤の嘘吐きルベールは、立場的には主演ですが、物語的に言うと二番手。嘘に巻き込まれるアンリが実質の主人公だと私は思っています。イットランズではヒューバートがそれにあたるかな。

錦織さんと越岡さんを比較するのはあれですが、つまり、ルベールは物語を動かすにあたって大事な役割を担っています。性格は自己中心的で、自分の劇のためにアンリの恋路を利用している酷いやつです。でも、そういうネガティブなだけの要素はコメディにとっては恐らく不要で、受け取る側にはその駄目さも愛しさや可愛らしさに変換して届かせなくてはいけなくて、それってめちゃくちゃ難しいだろうなあって。四人の中では台詞量も多いですし、スキャンダルで干されてはいても立場としては売れっ子俳優、周りを巻き込んでもなんでか許されちゃう、一見嫌な奴だけどどこか憎めない、強いカリスマ性がルベール=越岡さんに求められているのではないでしょうか。

 

  • シャルル

シャルルは上にも書きましたが、一作目『シャルルとアンヌ〜』の主人公だと私は考えています。となると、辰巳さんは、嘗ての主人公ということです。過去に物語の主軸を担い、完結させたことのある人。元主人公。それが辰巳さんに充てがわれたのって、私にとってはとても新鮮で意外性のある立ち位置です。

舞台を観た時に私は辰巳さんが一番うまい、魅力的なお芝居をする人だな、と思いました。他3人が背格好が似ている中、比較的小柄で細身な辰巳さんは目立ち易いのだとも思うのですが。

 辰巳さんで一番印象的だったのはここ。頭の方まで皮膚が動いてて柔らかくって、だから目を引かれるんだなって思いました。表情が豊かな方なんですね。

パンフレットで錦織さんが「誰もが芝居をしている」と話していて、恐らくこの舞台一番の見せ場である、カトリーヌに本当のことを話すシーンでシャルルが似たような台詞を言っていたんですけど……どんな台詞だったのか、見事にど忘れしてしまいました(:;)これきっと書き手が一番言いたかったやつ!!と観劇しながら興奮したのに、すっかり抜けてしまいました……(:;)おおお

書き手が一番伝えたかったであろう台詞を、元主人公であるシャルル=辰巳さんに宛てがわれたこと。辰巳さんって、影の主人公なのかな?なんて思ったりしました。

辰巳さん自身はパンフレットで「ふぉ~ゆ~をかき回してやろう」「フラットな意見を壊したい」と話していますが、シャルルは壊す役ではなく、担い手・語り手の人だと思うんです。宛てがわれた役と本人の発言とのギャップも面白いです。

 

  • レオ

舞台って一人の役者さんが何役も演じることって珍しくないと思うんですけど、種明かしされるまでザキさんもそうなんだって信じてて、でもよくよく考えたら、あのクオリティの女装が本気の女性役なんだとしたら、新喜劇かよって話ですよね……(笑)

 ザキさんの役を全部バラバラな人達だと思って観てたので、途中までこの舞台は3+1の舞台なんだな、と思っていました。パンフレットでザキさんは「特殊」と言われていたし、グループ内随一のボケでオチ要員なのは知っていたので、舞台でもそういう役割になるんだ~と思っていました、が。

架空の存在であった筈の高級ホテルの御曹司が実在した、しかも、ルベールのファンで引っ掻き回し役のおふざけキャラだと思っていた売れない俳優のレオがその正体だったことで、四人のヒエラルキーが一気に逆転します。椅子の上に土足で立ち上って自身が御曹司であること、けれどそれを捨てて俳優の道を選んだことを話すレオは、頭の高さで比べるとしても、一瞬であの場のトップに擦り替わります。3+1のおまけのような存在だと思ってたレオが、四人の中で一番のポテンシャルを生まれながらに備え持つ優秀な人物であったこと、そしてそれを演じているのがザキさん。椅子に乗る演出も相俟って、レオ=ザキさんという人物に一気に注目が集まりました。

 

レオの立場がわかったところを以て、この作品が「若い男性四人が対等主役」、意訳すると四人が平等な主演であることに大きく頷くことが出来ました。

起承転結に例えるなら、嘘つき計画を持ち出したルベールが「起」、それを請け負い最後の告白の場で綺麗に嘘をまとめあげたシャルルが「承」、場を引っ掻き回して最後には本当の御曹司という意外性を突っ走ったレオが「転」、元素と数字だけを抱えていたのに大学もクビになり恋した相手も相当の身分違い、けれど最後にはそのどちらも手元に引き寄せたアンリが「結」、かなぁと。これらの見方を役を通してふぉ〜ゆ〜四人に重ね当てて見るには、もう少し時間が必要だと思うので、今後の仕事を楽しみにしています。

 

 

for you

四人のゆうちゃん、合わせてふぉ〜ゆ〜。クリエにあらゆる先輩を召喚しちゃうふぉ〜ゆ〜。随所で見かける「愛されふぉ〜ゆ〜」の文字。

そんなふぉ〜ゆ〜お兄さん達が歌う「for you」。あなたのために。そうだった、彼等は愛を与える側の人達、アイドルなんだった。

マイクを使わない博品館でマイクを通して聞いた四人の声は、「for you」を歌う四人の歌声でした。

メンバーカラーのテープが貼られたスタンドマイクで歌って踊るふぉ〜ゆ〜は、初主演舞台で歌って踊るふぉ〜ゆ〜は、今までの彼等、初めての主演で初めての劇場で初めてばかり舞台できっと恐らく唯一初めてではなかったこと。歌って踊る姿を魅せてくれるふぉ~ゆ~、四人お揃いのタキシードを着て客席に向かって「for you」と歌うふぉ~ゆ~の皆さん、最高に格好良かったです。

 

 

パンフレットで池田さんは「最初はどんな公演で誰が演じるかもわからなかった」と話されているので、殆どが私のこじつけだとは思うんですけど、 池田さんと錦織さんが、ふぉ~ゆ~四人にどの役をどう宛てがうか、二人の目から見える景色を想像して見るふぉ~ゆ~四人がとっても楽しかったです。

劇中でも、辻褄を合わせるために嘘を付け足していくルベールとシャルルに対してアンリが「こうやって脚本って作られていくんだろうな」と 言っていたので、四人に合わせての変更も色々あったと思うんですよね。私は錦織さんのファンなので、錦織さんの目から見える景色、錦織さんの手で調理され ていく役、その役割、立ち振る舞い方、その真ん中に立つふぉ~ゆ~の四人。どれも素敵で魅力的なものたちばかりでした。

12月の舞台も決まっていますが、脚本池田さん、演出錦織さん、主演ふぉ~ゆ~の作品もまたいつかもう一度お目にかかりたいです。ルベールは復帰出来たのか?レオは売れっ子になれるのか?今より更に経験を重ねた皆さんが作る新しい作品も、是非いつかまた、観劇できたら嬉しいな。

 

 

最後までお読み頂きありがとうございました。

皆さんの益々のご活躍を楽しみにしております! 

*1:昨年のオダサク再演でもこのネタを使っていたので(当時はとてもタイムリーだった)、錦織さんはこのネタが大好きなんだなって思いました。 

*2:イットランズの舞台はイギリス・ロンドンになるんですけども。