舞台『サクラパパオー』 塚田僚一の生命力
脚本・鈴木聡さん、演出・中屋敷法仁さん、主演・塚田僚一くん(A.B.C-Z)で上演されている、2017年版『サクラパパオー』の話を好きなように話す記事の3つ目です。
①『サクラパパオー』という作品について
akeras.hatenablog.com
②2017年版の登場人物について
中屋敷さんと塚田くんのはじまり
塚田くんと中屋敷さんといえば、2014年に少年隊・錦織一清さんが主演を務めた『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー~パパと呼ばないで~』に塚田くんが錦織さんの息子役で出演した際のこの記事が、2人を繋いだ一番最初の記事でした。
3年前のこの記事で中屋敷さんは、この作品がデビュー後初めての外部舞台出演だった塚田くんの話題に触れています。
塚田僚一くんはまったく初めてこういう世界に出会った感じですが、その彼に対して皆さんの演技が丁寧に作り込まれていくので…塚田くんなりの喜劇のスタイルが生まれてきているようにも感じました。
『イット・ランズ~』は元々、レズリーとデイビットが父子関係であることを隠すための嘘から始まるお話なのですが、登場人物としても出演者としても、レズリーと塚田くんは作品中の最年少でした。自分がデイビットの隠し子であることも、それを隠すために嘘が嘘を呼んで周りが大変なことになっていることも、何も事実を理解していない18歳のレズリーと、ジャニーズアイドルという特殊な畑からやってきた塚田くん。2人の境遇は絶妙にリンクしており、中屋敷さんはその関連性を見事に見抜いていたのです。*1
座長のスタイルとして、皆の先頭に立って引っ張っていくタイプと、皆に支えて貰いながら形を固めていくタイプのおおよそ2つに分かれると聞きますが、塚田くんは圧倒的に後者のタイプです。
そんな塚田くんの性質を2014年時点で既に目撃していた中屋敷さん。同じ記事で「喜劇は絶対にやらないって決めているんです。怖すぎて。」「もう少し勇気が出たらいつかやりたいとは思いますけど……まだまだ先の話ですね(笑)。」とお話されていたのが、まさか3年後に塚田くん主演でコメディ作品を上演することになったのも、素敵なご縁だなあと思います。
中屋敷さんから見る塚田くん
【速報!】パルコ・プロデュース「サクラパパオー」(作:鈴木聡 演出」中屋敷法仁 出演:塚田僚一(A.B.C-Z) 他)、4月彩の国さいたま芸術劇場、5月東京国際フォーラム ホールCにて上演決定! https://t.co/L6Gu9cyu2E #サクラパパオー
— PARCO STAGE (@parcostage) 2016年12月12日
サクラパパオーの仮チラシ!!黄色×緑で可愛いーーー!!! pic.twitter.com/wUd7TzWw6S
— あき (@planetofU) 2016年12月28日
1つ目が『サクラパパオー』の上演が決定した第一報。2つ目は、一番最初の仮チラシです。第一報で発表された情報は「サクラパパオー」「脚本・鈴木聡」「演出・中屋敷法仁」「主演・塚田僚一(A.B.C-Z)」、そして「上演日程と劇場」。
インタビュー記事を読むからに今回の上演は「演出が中屋敷さん」「鈴木聡さんの脚本からの再演」であることがまず先頭に立っていると推測されます。鈴木聡作品の中からサクラパパオーを選んだのは、パルコ側ではなく中屋敷さん自身の意思。塚田くんの名前はパルコ側から挙がったのか中屋敷さんから挙がったのか定かではありませんが、兎にも角にも、第一報に鈴木聡さん、中屋敷さんと並んで塚田くんの名前があったことは揺るぎない事実です。
稽古前の段階で既に中屋敷さんの中には「演者を動かす」プランが想定されていました。先の記事に「塚田さんはとにかく体力がありますからね。ただ椅子に座って会話するだけではおさまらない気がするので。」とあるように、塚田くん=体力の関連はこの時点で繋がっていて、中屋敷さんの『サクラパパオー』の演出プランの中には、そこも狙いだったのか、それともたまたまハマっただけなのか、塚田くんの特性が自然と溶け込んでいました。
パルコステージと塚田くんの身体性
デビュー後初めての外部舞台、2014年『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー』。初めての主演で二人芝居、2016年『ボクの穴、彼の穴。』。そして今年の初単独主演初座長、2017年『サクラパパオー』と、パルコステージの舞台に立つのが3作品目になります。
昨年春にパルコ劇場で上演された『ボクの穴、彼の穴。』は、死と隣り合わせである戦場、身体の動きが制限された塹壕の中で暮らす2人の兵士の独白でストーリーが進んでいきます。演出はノゾエ征爾さん。ボク穴の話はこちらでしております。
『ボクの穴、彼の穴。』と『サクラパパオー』の塚田くんは、真逆のアプローチ方法で各作品の世界観を表現しています。
『ボク穴』は上演発表から公演初日、そして千秋楽を迎えるまでの期間が2ヶ月もなかった、とてもハイスピードな作品でした。全8公演、劇場はパルコ劇場のみで地方公演はなし。パルコ劇場の客席数は458席。単純に計算するとして458席×8公演=3664人と、日程の調節も含めて、観たい人が絶対必ず観れる舞台ではありませんでした。作品上の設定も、死の恐怖に追い詰められ、精神的に狂っていく2人の兵士の様を描いており、作品としても観劇環境としても、観る人を選ぶ閉塞的な空間の中、執り行われた舞台でした。
打って変わって『サクラパパオー』はコメディ、喜劇です。大きな劇場で出演者もパルコステージ経験者が多く、殆どどの公演もコンビニや当日劇場でさくっとチケットが購入出来て、ファン以外の人にも観劇初心者にもやさしいハードル設定で、ボク穴とは打って変わって、外に向けて広く門を開けた開放的な作品です。観劇環境と同じく作品中の塚田くんも、『ボク穴』の狭い劇場で息を詰め、針穴に糸を通す様まで目に入ってくるような、視野を窄めて一挙手一頭足まで注視するような作品ではなく、塚田くんが主演であることを思わず忘れてしまうような、舞台上をあっちこっちと大きく移動するバラエティに富んだ各キャラクターを、広い視界で満遍なく楽しめる作品になっています。
ノゾエさんは塚田くんの体の自由さをギュッと押し込めることでそこから漏れ出るものを大事にしてくれて、中屋敷さんは塚田くんの生命力をどこまでも開け放つことでエネルギーのでっかさを尊重してくれて、真逆のアプローチなのにどちらも塚田くんの良さがこれでもかってくらい発揮されてておたく感無量
— あき@現場メモ (@_akintbre) 2017年4月27日
サクラパパオーの上演にあたって中屋敷さんがどこまで過去の塚田くんの仕事を深堀りしたのかわかりませんが、パルコステージで上演された各作品は塚田くんを見せる角度がどれも違っているんです。
ジャニーズ初のSASUKE出演を果たすほど、非常に優れた身体能力を持つ塚田くんを、ノゾエさんは戦場、塹壕の中という心身ともに強い制限の中にぎゅっと閉じ込めることで、表情、声、身体を使って、より人間の本質に迫るものを表現し、中屋敷さんは、大劇場の舞台上を塚田くんに走り回らせることで、作品の喜劇性だけではなく、他の出演者の躍動感をも煽っていきました。
ボク穴が「陰」なら、サクラパパオーは間違いなく「陽」の舞台です。
塚田くんは主演ではありませんが、誰よりも先に塚田くんを演劇空間へと誘い、塚田くんの身体能力をお芝居の中で用いたのが、『イットランズ』。劇中、レズリーは喜びのあまり側宙するシーンがあったのですが、塚田くんにお芝居としてレズリーにアクロバットをするように推したのは、同作主演であり同事務所の大先輩である少年隊・錦織さんでした。「折角の武器なんだから見せていかないと」という錦織さんの助言があり、作品を通して塚田くんの武器をお披露目出来、そしてその稽古と作品を観ていた中屋敷さんが、3年の時を経て再び塚田くんに演技表現としての「アクロバット」を見せる機会を与えてくれました。*2
初めての舞台で「陽」、二度目の初主演舞台で「陰」、三度目の初単独座長舞台でまた「陽」と、オセロがころころと裏返っていくように、塚田くんの白と黒を交互に見せてくれるパルコステージ。
ノゾエさんも中屋敷さんも、パルコステージから「新進気鋭」の謳い文句を掲げられている、未来を期待されている演出家さんです。実力は十分に評価されている、あとは羽ばたけるか否か、そんな2人が一段上のステージへ昇る足掛かりとなる作品に、塚田くんが主演として二度も選ばれたことを、本当に本当に光栄に思います。
イットランズでの錦織さんの言葉でもう一つ。東京千秋楽の挨拶で錦織さんは、塚田くんのことを「本当に惚れ惚れする男。(観客だけじゃなくて)出演者にも感動をくれる」と話してくれました。塚田くん、観に来てくれるお客さんだけじゃなくて、同じ空間の近い距離で同じ仕事に取り組んでいる出演者の方にも感動を与えてくれるんですって。いやもう、もうすんごいそれ!!!(大の字)
稽古場で昨日まで出来ていたことが次の日になるとまったくできなくなっていたり*3、数時間前までSASUKEに挑戦していたのが嘘のように千秋楽の舞台に立っていたり*4、劇中は詰まることなく進んでいたのにカーテンコールになるとたじたじになってしまったり*5、塚田くんって本当に面白い人です。言うてしまえば危なっかしいんですけど、でもそれが、マイナスの位置でとどまらずに、プラスの位置にまでぐーんと押しあがっちゃうんですよね。塚田くんがそこにいることで、塚田くんを目にするお客さんだけでなく、その場にいる共演者の心まで動かしてしまう、立場を選ばずに他人を動かしてしまう力が、塚田くんの生命力なんだと私は思います。
塚田くんは俳優でもない歌手でもない、演技もするし歌って踊って、バラエティにもSASUKEにも出ちゃう、アイドルなんです。
そんな塚田くんの個人的な最新名言。今はもう公開が終わってしまったんですけど、ジャニーズウェブの期間限定連載『塚打塚助』に書かれていたこの言葉。
アイドルというものは生き様であると私は思う
アイドル・塚田僚一くんの生き様を、これからも見届けていきたいです。
長々と頂きお付き合い、ありがとうございました!