えりあし

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ボクの穴、彼の穴。

PARCO劇場 - Wikipedia

PARCO劇場(パルコげきじょう、英語PARCO Theater)は、東京都渋谷区宇田川町にある劇場。渋谷パルコパート1の9階にある。

1973年5月23日に「西武劇場」として開場。オープニング記念公演は武満徹企画・構成の5日間にわたる「MUSIC TODAY 今日の音楽」。ピアニストのピーター・ゼルキン高橋悠治らが出演した[1]。また74年から88年まで連年上演された細川俊之木の実ナナの主演によるミュージカル『ショーガール』は、当時の若者に強く支持され、パルコの支持者増加につながった[2]

1985年に現名称に改称。客席数458席と小規模ホールながら、三谷幸喜作品など、演劇を中心に人気作・話題作を数多く上演している。

建て替え工事に伴い、2016年8月7日を以て、43年続いた「渋谷パルコ劇場」は一時幕を閉じることになりました。

HPにはPARCO劇場クライマックス・ステージという特設ページが設けられ、Season1にはパルコ劇場縁の演目、そしてSeason2は“ネクスト世代”ーーー次世代を担うクリエイターの方の作品が起用されたようです。*1

 

パルコ劇場クライマックス・ステージをやるにあたってパルコ劇場から「ノゾエさんで、舞台を一本」と依頼を受け、この時点ではキャストも演目も決まっていませんでした。話を進めている間に「少人数で出来る作品はないか」と挙がったときにノゾエさんは、以前から持っていた原作絵本である『ボクの穴、彼の穴。』が浮かんだそうです。キャスト決定の具体的な経緯は私の見た限りどこにも記載はなかったのですが、ノゾエさんは「動ける二人」を探していたそうです。ノゾエさんで舞台というのは少し前から決まっていたそうですが、作品が決まってからは「バンバンバン!と上演が決まり」、舞台雑誌の撮影の場で三人は初めて顔を合わせました。

 

www.parco-play.com

こうして決まった、演出・ノゾエ征爾さん、出演・塚田僚一さん、渡部秀さんによる二人芝居『ボクの穴、彼の穴。』は、2016年5月21日~5月28日まで、全8公演が上演されました。上演が発表された4月6日から千秋楽まで2ヶ月未満という、あっという間の出来事でした。

更に、パルコ劇場の座席数は458席。単純計算で458×8=3664。舞台というのは定められた空間と時間、限られた人数の目にしか見ることの出来ない、舞台と観客の秘密の迎合を楽しむものではありますが、いろんなことが急すぎて、千秋楽を迎えてしばらく経った今も、一体何が起きたのか…というくらい、目まぐるしい約2ヶ月の秘め事でした。

ひとつのステージをご覧いただけるのは、458人だけ。けれど、おひとりおひとりに少しずつかたちの違う感動が生まれることを私たちは願ってきました。そして劇場を後にされた皆さんに、何かが宿り、やがて大きな広がりを持って、その時代に静かにしみ通っていく。その奇跡のような「458」のダイナミズムのはたらきを私たちはよりどころとして参りました。
劇場を愛してくださったお客さま、よい舞台をつくるために力を尽くしてきたスタッフ・キャストの皆さん、多くの方々のご尽力に、心から感謝を申し上げます。

―――パルコ劇場

もっと多くの人に知って貰いたかったと思う反面、この座席数公演数、決定から千秋楽までのスピード感、このタイミング、それら全てがで掛け合わさって、今胸にあるこの舞台の楽しさ全てに繋がっているのだと思うと、舞台って生き物だなあ、と改めて強く思わざるを得ません。

 

私のパルコ劇場での観劇は2014年『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー~パパと呼ばないで~』、2016年『恋と音楽 FINAL~時間劇場の奇跡~』に次いで今回が三作品目です。今作はコメディではないのですが、観劇後には前二作同様、満ち足りた幸福感を胸に劇場を後にすることができました。

「いいものを見た。」

あれやこれやと理由を見つける楽しさもありますが、全てはこの一言に帰ってきます。

 

ジャニーズ事務所に所属するアイドルとしてグループで活動している塚田くんと、アミューズ所属の俳優渡部くんの二人芝居。ノゾエさんもインタビューで「(パルコ劇場は)なかなかの開拓心だなと(笑)」と話されていましたが、キャスト二人に関しても私はそうだと思っていて、一度はパルコ劇場の舞台に出演したことのある塚田くんですが、主演の経験はありません。渡部くんは2015年に『GO WEST』という舞台で主演を務めたことがあるのですが、大変お恥ずかしいのですが、私は渡部くんの名前はこの舞台きっかけで初めて知りました。そしてノゾエさんのことも。

99年に劇団を立ち上げ、演出兼役者としても長い期間演劇に携わってきたノゾエ征爾さん

98年にジャニーズ事務所に入所し、12年にデビューを果たした塚田僚一くん
小さい頃仮面ライダーに憧れて俳優を志し、10年に『仮面ライダーオーズ』の主演を果たした渡部秀くん
近い業界でありながらも全く違う生き方をしてきた三人が、特急電車ばりのスピードでひとつの舞台を作り上げることになった16年5月、パルコ劇場クライマックス・シリーズSeason2。“ネクスト世代”という言葉が三人全員に見事に当てはまっており、これだけでひとつのドラマのような出会いの奇跡を感じます。

 

 舞台、とっても面白かったです。戦場でのお話でしたが、シリアスな面は勿論、くだらなさに声を上げて笑ってしまったり、ほっと息を吐けるシーンもあるので、90分ずっと緊張の糸を張りっぱなし、といった舞台ではなく、肩肘張らずに楽しめる素敵な舞台でした。

穴の演出がとにかく素敵で。はじめは荒野の地面を表していたセットが、床に敷いた布を吊るし上げることで、一瞬にして穴の中に落ちる演出がシンプルながらにとても幻想的で、そこから一気に舞台の世界に引き込まれました。

穴は劇中、天井のように二人の頭上にずっと吊るされていました。ノゾエさんが「体のポテンシャルが高い二人の“出したいエネルギー”をどうギュッと抑えるか。それによって漏れてくるものがあると思うので」と話していた通り。
天井の穴は序盤では立ち上がると頭の上十センチ二十センチのところにあり、前の方の座席で見たときに、後ろの席で見たときよりその存在感に圧倒されたので、舞台の上で演じている二人も、常に頭の上にプレッシャーを感じていたのではないかと思います。穴は二人の精神に余裕がなくなるほど低く置かれ、雨のシーンでは膝立ちをした二人の頭のすぐ上にまで穴は迫ってきており、これがノゾエさんの言うギュッと抑えたエネルギーのフラストレーションの形なのかなあと。そして最後の場面では、恐らく劇中で一番高い位置に穴は置かれていたのではないでしょうか。大きく上を仰いで、一度は殺すことを決意した相手からの連絡を待つ二人の心の開放を感じました。

『イット・ランズ~』も『恋と音楽~』も、舞台は屋内の一室だったので、本物の部屋のように細かくセットが作られていたのですが、今作のセットは本当にシンプルで、穴を表す布と、二人の兵士の持ち物くらいしか舞台上にはありません。それなのに、布一枚で天井の穴、星空のスクリーン、獣の幻覚―――見せ方ひとつでこうも景色が違って見えるものなのかと、演劇にしか出来ない表現とその凄さを見せつけられました。

 

 

舞台は全8場で構成されています。

  1. 荒野
  2. 塚田の穴
  3. 渡部の穴
  4. 二人の穴
  5. 星空の穴
  6. 雨の穴
  7. 外の穴
  8. 彼の穴

ちなみにこれは私の勝手な区分です(笑)。

 

ジャニーズ舞台ではお馴染みですが、登場人物二人は実際の二人と同じ役名です。実際の二人と大きく違うのは、29歳の塚田くんが劇中では24歳に、24歳である渡部くんが劇中では26歳に。二人の年齢が実際の年齢と逆転されています。

渡部くんは学級委員長として恐らく集団行動が常で、一方塚田くんはいじめられっ子の一人ぼっち。塚田くんは一人ぼっちどころか、00年頃にはもうA.B.C.としてグループで活動をしてきて、12年にはデビューもしていて、一生グループの一員として活動を続けていく人です。渡部くんはアイドルではなく俳優なので、一生を共にするメンバーにあたる相手はいません。

ノゾエさんは「(二人に)嘘は吐かせたくない」と話しています。あくまで物語上の役の話なので、役と人とを完全に一致させる必要はないのですが、本人たちの名前を使っている以上私はどうしても役と本人を照らし合わせて考えてしまいます。ちょっとずつ、違うんです。

パンフレットで渡部くんは「自分以外のものは全部敵って思うときがあります(笑)」と答え、塚田くんは「(敵は)自分自身ってことになるのかな」と答えています。「他人が持っていて自分では持っていないものを見せ付けられると『僕だけだ』という感じが、とても孤独」と話す塚田くん、「自分さえ信じることが出来ていれば、あまり孤独は感じない」と話す渡部くん。戦争の話も、今の生活は戦争の上にあることを考えながら「今、感じていることが正しいのかどうか、わからないです」と答えた塚田くん、いろいろ複雑なことは考えつつも「結局最後に出て来る言葉は『くだらない』という言葉」と答える渡部くん。二人ともいろいろと考えている人なのはインタビューからよくわかるのですが、面白いくらいに答えがどれも真逆。そんな二人の考え方の真逆さは、劇中で「学級委員」「いじめられっ子」という立場に置き換えられてます。

ストーリーは基本的に原作通りに進みますが、原作では一人のみの視点で語られ、相手の語りは一切ありません。劇中も基本は塚田くん・渡部くんの独白で話が進みますが、二人が会話をする場面が舞台のオリジナルパートとして存在します。

8場。彼の穴に入った二人が「彼」も「ボク」と同じなのだと察す場面で渡部くんが「彼も仲間を失ったのかもしれない」と自分にとってのマイケルが彼にもいるのではないかと考えたときに、「ボク」の穴にいるはずの「彼」、塚田くんが「それは違うわ」と否定の言葉を釘刺します。残虐卑劣なモンスターだと思っていた相手が自分と同じ人間であることがわかった、「彼」と「ボク」は同じ「人間」だった。けれど「個人」にまで細分化されると、人と人とは必ずしも同じ括りに入るとは限らない。むしろ二人は全く別の「個人」だった。

遠い距離から見た彼とボクは違う生き物なのだと思えば、存外近しい存在であり、けれど近づいてみると全く別の人間であることがわかる。ちょっとずつの機微な摩擦が、この作品の生々しさを積み重ねているように感じました。近い業界で活動をしてきた二人は、けれど決してお互いがぴったり重なり合うことはない。アイドルと、俳優。そしてそんな二人の内側を役に抽出し、作品としてのおもしろさに繋げたノゾエさん。私の中心は塚田くん、けれど劇は二人芝居、そしてそれを作っているのはノゾエさん。

ピントを絞ったり広げたりして、いろんな視点から、自分の好きな視野から作品を楽しめる、本当に素敵な作品でした。

 

パルコ劇場の歴史の長さに比べたら、私がこの劇場に触れた時間は最後のひと握りでしかないけれど、最後のひと握りに間に合えたこと。ノゾエさん、渡部くんという、塚田くんを通して出会えた人達。この舞台に関わるすべて、塚田くんが連れて来てくれたことで見れた景色であること、本当に感謝しています。

ノゾエさんも渡部くんも、次の仕事がもう決まっていて、塚田くんもまさか千秋楽の朝にSASUKEのリベンジを果たす*2という、ただでは終わらせない衝撃の一発を最後の最後に食らわせてくれちゃって、本当に面白い人だなあと、塚田くんのファンになってから感心しっぱなしです。

 

多分また、割と近い未来に、塚田くんはまた、パルコ劇場のステージに立つんだろうな。って、なんの根拠もないけど、そんな風に思えた。そう思わせてくれた瞬間があっただけで、幸せ者だなあ私は。ありがとうね、塚田くん。

 

イットランズの記事の最後にこんなこと書いてたんですけど、塚田くん、本当にもう一度、パルコ劇場に連れて来てくれちゃいました、「初主演」という大きな看板も一緒に。びっくりですよ、ほんっとーに!!!!

上演が終わっても三人の仕事は終わらなくて、なんなら塚田くんは期間中に次の仕事を大々的にぶち込んでくれて(笑)、いろんな意味で思い出深い作品になりました。

千秋楽は仕事で観に行けなかったんですけど、感傷に浸る隙なく不意に横からSASUKEで殴られたので、全然センチメンタルになりきれてないです!!!(笑)でもそれが塚田くんらしいなあって思います。いやー、本当に、楽しかった。あっという間の約2ヶ月でした。何回も同じこと言っちゃうくらいに、楽しかったです。

 

舞台の機会を設けてくださったパルコ劇場、愛ある演出と演劇の素晴らしさを今一度教えてくださったノゾエさん、最初から最後まで真面目な人柄だったのにラジオでDARKNESSを流してくれた渡部くん、いつだって予想以上に予想外に楽しませてくれる塚田くん、関わってくださった全てのみなさんに感謝です!ありがとうございました!!

 

 

 

 

togetter.com時系列なぞりたがりなのでまとめました。リアルタイムの臨場感を思い出したいときに読み返そうと思います。

*1:ノゾエさんのインタビュー記事参照。

*2:千秋楽当日がSASUKEの収録日でした。舞台が始まる前は「楽日とかぶっちゃったから今年は参加出来ないね、残念だね」と思っていたら、朝にSASUKEってから公演期間中唯一の1日2公演をやりきった塚田くん。つよすぎ。