えりあし

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舞台『サクラパパオー』 アイドルと作るファンタジーの世界

2017年4月26日、彩の国さいたま芸術劇場で舞台『サクラパパオー』初日の幕が上がりました。

『サクラパパオー』の初演は1993年、鈴木聡さんの劇団・ラッパ屋で上演され、95年に再演、01年にはパルコプロデュースが手掛け、今回は演出に中屋敷法仁さん、そして主演・座長にA.B.C-Z塚田僚一くんを迎えての4度目の上演になります。

 

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初日、観劇してきました。すーーーーごい楽しかった!!!目の前で繰り広げられる劇をただ受け取るだけでよくて、最後にはみんな幸せになって、気持ちよく見て気持ちよく帰れる素敵なコメディ舞台でした。

四半世紀前に書かれたとは思えないほど今尚色褪せない人間模様、時代の古さを感じさせないファンタジーな演出、どの役者さんも役そのまんまにしか見えないキャスト、オシャレで派手でポップでカラフルな舞台セット。音楽が重なる場面やモノローグではマイクが使われていますが、基本は生声!機械を通さずに演者の方の直の声で演劇を体験できました!

 

最高にハッピーなコメディなので、特に言及するところがないんですよね!笑 この辺の記事を読めば舞台の感想が全部出揃うし、答え合わせにもなっちゃうから、改めて書き起こすことが「楽しい」「よかった」「面白い」「幸せ」以外になんにもないです。贅沢な悩み!

 

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塚田僚一×中島亜梨沙×黒川智花×片桐仁『サクラパパオー』稽古場座談会! - げきぴあ

 

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本編に対しては、ただ劇場に行って座って観て楽しい!よかった!さいこー!に尽きるので、今回は自担である塚田僚一くんが主演の2017年『サクラパパオー』について、想像を交えながらの個人的な感想を書いていこうと思います。

 

 

 

 

 2017年版『サクラパパオー』について

過去の『サクラパパオー』から2017年の『サクラパパオー』になっての変化は、大きく分けて3つあります。

 

  • 小劇場から大劇場へ
  • 鈴木聡さんから中屋敷法仁さんへ
  • 俳優からアイドルへ

 

そしてこの3つを束ねてるのが、あちこちで中屋敷さんが繰り返している「ファンタジー性」です。

 

 

  • 小劇場から大劇場へ

サクラパパオーの初演93年の劇場は、今は閉館しているシアタートップス、座席数は約150席。再演の95年も同じくシアタートップス。パルコプロデュースになった03年にはパルコ劇場に移ったので458席。ここでいきなり3倍になっていますね。ちなみに、このパルコ劇場での『サクラパパオー』が鈴木聡さんにとって初めての商業舞台だったそうです。

そして現在公演中の彩の国さいたま芸術劇場大ホールは778席。東京公演の国際フォーラムCでは最大1502席。パルコ劇場→彩の国でも随分と拡大しているのに、今回の公演期間中のさいたま→国フォ間でも更にどどっと席数が増えます。

座席数が増えるということは収容人数が増える、より多くの人間の目にとまり多くの価値観に触れるということで、少人数では共有できていた感動が薄まったり、また、観劇に対するモチベーションにもバラつきがでてきて、作品に対する知識や、そもそも舞台演劇というものすら初めてな人も出てきたり。箱が大きくなればなるほど人の数が増え、それぞれ求める理想が食い違ってきてしまいます。

そのギャップをどう埋めていくかが大劇場で公演するにあたっての鍵だと思うのですが、中屋敷さんが選んだ答えは《ファンタジー》でした。

 

 

  • 鈴木聡さんから中屋敷法仁さんへ

元々この作品は小劇場用に書かれたもので、基本的に再演はしないラッパ屋の中でも『サクラパパオー』は再演希望の声が多く、95年の再演では客演を招いての2バージョン編成、03年のパルコステージでの上演ではラッパ屋からは2人のみの参加と、劇場だったりキャストだったりと、前回の上演と必ず違う取り組みがされています。

作品作りにおいて、ドラマは現場、映画は監督が一番大事と聞きますが、舞台ではそれが演出家にあたります。劇場もキャストもがらっと様変わりし、何より脚本家本人であり、過去3回すべて演出まで手がけてきた鈴木聡さんの手を離れ、今回の上演は中屋敷法仁さんが演出を担うことになりました。

中屋敷さん演出の舞台は、中屋敷さんの劇団・柿喰う客『虚仮威』を観劇させて頂きました。感動したので感想も書きました。劇の記事を見てもらえばわかると思うんですけど、めっちゃ怖いですよね、ビジュアル。ストーリーも人間の愚かさに触れるような場面が多く、めちゃくちゃ面白かったんですけど、ここから『サクラパパオー』をやると言われても全然イメージが結びつかなくてどうなるんだろうと思っていたら、サクラパパオーもめっちゃ面白いかったので、中屋敷さんって本当にすごいですね??

 

鈴木聡さんは朝ドラの脚本もされていますが、中屋敷さんは「演劇」、舞台というものに強いこだわりを持っている印象です。『虚仮威』の記事でも「演劇でしか出来ないことをやる」と宣言し、今回の『サクラパパオー』も、大衆的なものを目指しつつも「演劇」であることの意味や価値を非常に大切にしたつくりになっていました。

 

演出家としては今作を、コメディの要素を基盤とした壮大な「ファンタジー」であると読んだ。――『サクラパパオー』パンフレット

 

初演時から20年以上経っているため、人の生活様式は随分と様変わりしています。当時には携帯電話がないし、馬券売り場も今のような機械ではなく人の手で行われていたり、経済的にもバブルの時期なのでお金の動き方も今とは全然違います。そして舞台は仕事とも家庭とも異なる非日常の世界、夜の競馬場。日本の話なのでまったくちんぷんかんぷんというわけではないけれど、常に酔っ払っていたようなバブル時代の浮かれた雰囲気、競馬場という非日常の中での話であることを、中屋敷さんは全部ひっくるめて《ファンタジー》に作り上げています。

ファンタジーとは、空想、幻想。日常を切り取ったような話だけど、あくまでフィクション。私はこのファンタジー=フィクションと捉え、且つ、フィクションとは救済を意味するものだと思っています。

 

 

  • 俳優からアイドルへ

塚田くん演じる田原俊夫くんのことを、共演者の片桐仁さんは諸星あたるみたいな」と例えてくれました。

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婚約者とのデート場所に夜の競馬場を選んだものの、今まで隠していた極度の競馬好きがバレ、ワンナイトをキメた相手と彼女と三者ご対面の修羅場となり、指示を無視して買った馬券を相手の責任へと擦り付け――田原俊夫くん、なかなかのクズです。でも、どうしてか憎めない。

塚田くん自身、アウト×デラックスのレギュラーを2年務めているのは伊達じゃないので、人が買った食べ物を勝手に食べるし、人前で平気でおならするし、笑顔で言っちゃいけない方の正論を突きつけたりと、それ普通の人がやったら怒られるやつだからね?!なことをやってのけながらも、なんやかんや許されてしまうずるーいおひとです。そのずるさがめちゃくちゃ格好いいんですけど!好き!!

そのずるさ、憎めなさこそが、塚田くんのアイドル性だと私は思います。

アイドルの定義は歌って踊る行為そのものだったり、疑似恋愛の対象者だったり、神格化した個人個人の神様だったりと人それぞれだと思いますが、共通するのは、アイドルを取り巻く世界って自分の周りにはない世界です。アイドルという存在そのものがファンタジーの象徴。非日常の存在、理想の体現者なのです。

塚田くんは俳優ではなくアイドルです。今年の座長は、俳優ではなく、アイドルが選ばれました。中屋敷さんは座長がアイドルであることを尊重しつつも、最大限に武器として駆使しています。

今回のキャスト陣は劇団員、元宝塚に芸人と、普段ではなかなか出会うことのない界隈から集まっており、ネット記事でそれは異種格闘技戦と例えられていました。技術や実力を間違いなく備え持っている『サクラパパオー』の脚本と演出に、座長・主演を任された塚田くんは「アイドル」という大きなファンタジー性を齎しています。

より大衆化した作品作りを目指すうえで、今まで俳優さんが演じてきた役を、ジャニーズアイドル・A.B.C-Z塚田僚一くんが主演として演じることになった。まずそのキャスティングがファンタジー作りの大事な第一歩なのではないでしょうか。

 

 

 

演劇とアイドルとファンタジー

中屋敷さんの提示する《ファンタジー》を私は「美術セット」と「塚田くん」に感じました。

 

  • 視覚から伝えるファンタジー

美術セットはさすがのパルコ・プロデュース。舞台の真ん中には煌びやかな馬蹄型のオブジェと、競走馬を彷彿とさせるメリーゴーランド。舞台後方にはスターティングゲートをイメージした通路と柵があり、キャストもそこから出入りします。天井からは月や星が吊るされていて時間が夜であることを表し、傾斜のついた芝は応援席で、下手にはBAR、上手にはチケット売り場があり、舞台上がひとつの小さな遊園地のようです。

キャストは一目見ただけで違いがわかるように一人一人に色がつけられています。田原くんは、今日子ちゃんは、的場さんはピンク、ヘレンは黒、サムくんは、幸子さんは黄色、横山さんは予想屋の柴田さんは。唯一競馬場サイドの人間である実況者の杉村さんもですが、シルクハットにきらきらの衣装と、一人明らかに派手な装いです。レース中でも見分けがつくように競走馬やジョッキーもカラフルな装いを身につけているので、キャスト=競走馬のモチーフになっています。

もし『サクラパパオー』の世界観をドラマや映画などの映像で作るとしたら、ロケ場所は実際の競馬場になるでしょうし、キャストにもこんなに派手な色味の服は着せないと思います。 実写をそのままなぞるのではなく、あくまでモチーフ、抽象的なビジュアルにすることで、「舞台」であることの意味と価値を強調させています。舞台だからこそのカラフルでポップなセット美術は、視覚から《ファンタジー》をわかりやすく提示してくれています。

舞台観劇って衣食住のように生きていく上で“絶対に必要なもの”ではないので、「舞台観劇」そのものが非日常な行為です。だから、舞台を観に行くときってお客さんもちょっと浮かれてるんですよね。どんな舞台になるんだろう、今日の客席はどんな雰囲気かな、あの子は面白いって言ってたけど私にはどうだろうーー普段の日常生活では感じないドキドキを胸にしながら劇場へと足を運んだら、ポップでカラフルな世界が舞台上に広がっている。それに益々想像を掻き立てられて、ドキドキは更に強くなります。

劇場で味わう浮き足立ったドキドキと、競馬場で味わうドキドキって近いものだと思うんです。劇冒頭、競馬素人の今日子ちゃんを競馬場に連れて来た田原も、わかりやすく浮かれていましたしね。サクラパパオーの登場人物と客席と、どちらもドキドキふわふわ浮かれているから、劇場全体が大きなドキドキに包まれて、舞台上と客席との境目が曖昧になって、劇場丸ごとを大きな1つの空間として繋いでくれます。

 

  • アイドルが繋ぐファンタジー

塚田くんに関しては、やっぱりアイドルなところ。キャスト陣の中で唯一のアイドルであり、主演でもある塚田くん。

塚田くんといえば、「金髪・筋肉・塚ちゃん」。ジャニーズで初めて『アウト×デラックス』のレギュラーになり、長年念願だった『SASUKE』に出場も果たし、「塚ちゃん」というキャラクターは着々とお茶の間に浸透していっています。

自分が外部の舞台を観に行くときの決め手として「知っている人が出ているかどうか」って結構大きくて、作品自体に興味はあっても知ってる人がいないと楽しめるか不安で、逆に言うと、知ってる人が一人いるだけでチケット購入のハードルはぐーんと下がります。あらゆる分野で活動している「アイドル」の存在は、特に演劇に詳しくない人に対してとても優しく作品の世界へと手招きをしてくれます。

3回の再演を重ねて作品として十分な評価を得ている『サクラパパオー』が、もう一段階外の世界へ向けての発信と試みるタイミングで、「アイドル」の「塚田くん」が選ばれた。今年の『サクラパパオー』の主演で座長な塚田くんは、演劇と世間、現実とファンタジーを繋ぐ共通言語、遠く離れた国同士を繋ぐ架け橋としての役割も担っているのです。

 

 ここはものすごーーーく、憶測の範囲での話になるんですけど。

小劇場から商業演劇へと進んだパルコ・プロデュース版のホームページを見ると、ラッパ屋のときとキャストの並び順が違うんですよね。ラッパ屋の登場人物紹介では田原の名前が一番最初に来ているのに、パルコ版は的場の名前が一番最初にきていて、ストーリー紹介も田原と今日子ちゃんより先に、まず的場とヘレンの関係性を説明しています。これは完全に憶測でしかないのですが、01年時の主演は田原ではなく的場だったのではないでしょうか。

私が実際に観劇した『サクラパパオー』は今年だけなので過去との比較は出来ないのですが、どのキャストが主役でもおかしくないくらい個々のドラマが出来上がっているので、誰にスポットライトが浴びても面白く見れると思います。今回塚田くんは主演・座長ではありますが、田原だけがずっと出ずっぱりというわけでもなく、田原がいない中でもストーリーは動くので、先頭を切るタイプの主役ではないんですよね。本の加筆・修正も殆どしてないとインタビュー記事で話されていたので、演出のさじ加減でここはいくらでも変えられる可能性を秘めているんでしょうか。脚本は同じで主演が変わる『サクラパパオー』、見てみたい!本当に誰が主役でもおかしくないくらい、どのキャラクターも魅力的な人たちばかりなので!

過去3回の田原俊夫役はすべてラッパ屋の福本伸一さんが演じており、今回塚田くんはその田原を演じるのですが、福本さんとは塚田くんの初外部舞台『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー~パパと呼ばないで~』で共演済みなんですよね!パルコプロデュースで繋がった縁が違う作品でまた繋がれたことにも感動です。もしパルコ版の主演が的場だったとして、パルコ劇場より更に大きな劇場で上演される今回に、もう一度主演が田原に帰ってきたのだとしたら、併せて感慨深いです。

 

 

舞台『サクラパパオー』は、たくさんの人の夢と願いを乗せています。競馬場に集まったダメな人たちがサクラパパオーという競走馬に懸ける夢、競馬好きの人たちの夢をフィクションとして叶える夢、この素晴らしい脚本をより多くの人に届けたいと願う夢、演劇という娯楽をより多くの人に浸透させたいという夢、中屋敷さんが商業演劇に乗り込む足掛かりになるように、A.B.C-Zと塚田くんがより多くの人にその魅力を知って貰えるようにーー。

作り手の皆さんはただ夢が叶うことを祈るだけじゃない、作品を通してお客さんを救済してくれます。現実を生きていく上で、世の中こんなにうまくいくはずがない、誰もが幸せになれる世界なんてない、と切り捨ててしまう人がいたとしても、でも、もしかしたら、ひょっとしたら。現実と夢の隙間に「もしかしたら」という期待を、夢を見せてくれる。舞台上の人たちの夢が叶ったように、救われたように、もしかしたら自分の願いも叶うかもしれない。と、思わせてくれる、救いのある作品となっています。

 

田原を演じる塚田くんは主演で座長ですが、皆の夢を皆で叶えるための乗組員の一人なんです。ジャニーズアイドルが主演だけど、その看板ひとつだけでは物語は終わりません。塚田くんのための作品ではなく、作品を大きくするための手段としての塚田くんなんです。塚田くんがその一員に選ばれたことを、中心に置かれた事実を、いちファンとしてとてもとても光栄に思います。

しかもその夢が、とてもとても素敵な世界だった。素敵すぎて、何の言葉も紡げないくらいに。異種格闘技戦トーナメント表の0番に、塚田くんがいました。いろんな人の、いろんな立場から願われた夢を背負って。

 

「素敵」って奇跡だと思うんです。でも、塚田くんは何回も何回もその奇跡を見せてくれる、連れて来てくれる。本当に素敵なアイドルで、誇りの自担です。『サクラパパオー』に出会えてよかった!出会わせてくれてありがとう、塚田くん!塚田くんの齎してくれる幸せが、より多くの人のもとへ届きますように。残りの公演も頑張って!塚田くんのことが好きだなあー!