えりあし

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舞台『サクラパパオー』 勝手に登場人物紹介

akeras.hatenablog.com

 

前回は作品の話をしたので、今回は2017年版『サクラパパオー』の登場人物たちの話をしていこうと思います。

ちなみに演出の中屋敷さんは過去の上演を映像では見ずに、サクラパパオーの脚本やラッパ屋の他作品を読み込むことで、鈴木聡さんがラッパ屋の誰に向けてこの台詞を書いたかなど、文字から脚本の意図を探っていったそうなので、過去の上演とは随分と違った仕上がりになっていると思われます。

ここでは2017年版を観劇した身として、2017年のサクラパパオーについて、役者と俳優以外の所属場所、ビジュアルの【特徴】、中屋敷演出の【役柄】、役それぞれ異なる【競馬スタイル】といった観点から、どうしても主観になってしまうのですが、記録がてら紹介させて頂こうと思います。

 

 

 

田原 俊夫(塚田 僚一:ジャニーズアイドル・A.B.C-Z

【特徴】栗毛の単発、薄いグレーのタータンチェック柄のツーピーススーツ。
【役柄】岡部今日子ちゃんと婚約中。競馬好きなことは今日子には内緒のまま競馬場へデートに訪れるも、冒頭5分ですぐにバレる。結婚式の二次会の予約よりその日の競馬予想を優先するほどの競馬好き。部の旅行先で出会ったヘレンと一夜を共に過ごしたことを「どんちゃん騒ぎ」と例えるチャラさがアツイ。元バンドマンの27歳会社員。
【競馬スタイル】競馬は好きだけど当たりは悪い。馬券に大金をぶっこむ姿に男のロマンを感じ憧れているが、自分のお金でする勇気はない。
 
 

岡部 今日子(黒川 智花)

【特徴】ハーフアップお団子に黒髪ストレートロングヘア、赤いスカートに赤いパンプス。
【役柄】田原俊夫くんと婚約中。結婚前で気持ちが不安定になっており、何かと田原にケチをつけてしまう、絶賛マリッジーブルー中。賭け事なんてするもんじゃない!と最初は競馬そのものを否定していたけれど、田原が好きだというので自分で馬券を買って楽しもうとしてみたり、度量の拡大化が著しい。
【競馬スタイル】登場人物中、唯一競馬に興味がない競馬初心者。初めて勝った馬券は名前で決めた。初競馬で見事予想が当たったため自分に競馬の才能があるかも?!と浮かれたり、見る目があるねと褒められて乗り気になったりと、乗せられるのに弱そう。
 
 

ヘレン(中島 亜梨沙:元宝塚娘役)

【特徴】巻いた黒髪をサイドに、黒のノースリミニワンピに黒のロングカーデ、網タイツにピンヒール。
【役柄】田原と札幌でアツい一夜を過ごした謎の女。今は的場と付き合っている。「トシくん」「サムくん」「ヒロくん」などと、男性陣に専ニクつけがち。男性だけでなく女性をも魅了してしまう?
【競馬スタイル】友達(元カレ)が好きだから競馬場へはよく来る。結構当たるようだが馬券は買わずに馬を見て楽しんでいる。馬は人間の生まれ変わりだと思っている。
 
 

的場 博美(片桐 仁:芸人・ラーメンズ

【特徴】ショッキングピンクのロングコート、柄物スカーフ、アンクル丈のパンツ。
【役柄】オックスフォードに留学経験のある外務省務めのエリート。ヘレンにたぶらかされ公金を使い込み、そのお金を競馬で取り戻すべく3日間競馬場に通っている。今まで真面目に生きて来た反動か、ヘレンを前にするとヘロヘロになってしまう自分がちょっと好き。
【競馬スタイル】人生が懸かっているため馬券にかける金額が大きめ。読みは悪くないが、馬券の購入を人に頼んでしまったが故に予想通りの馬券を買えていなかったり、販売所前で予想屋に誑かされて予想と違う馬券を買って外してしまったりと、とにかく運が悪い。
 
 

井崎 修(伊藤 正之)

【特徴】紫地に馬柄のストライプジャケット、ループタイ、ロールアップした緩めのデニム。
【役柄】出会って10分でヘレンにメロメロ。同じくヘレンに魅了された田原と共に的場の手助けを試みる。通称・サムくん。日本人の地味なおじさん。奥さんがいてちゃんと仕事もしてる。地味なおじさん、と言われて凹む。的場を本気で心配したりと根はいい人なのだけれど、煽てられると滅法弱い。
【競馬スタイル】商売と馬と女が好き。劇中では主に的場の手伝いをしているので、これといったスタイルは謎。ヘレン曰く、結構当たる。
 
 

菅原 幸子(広岡 由里子)

【特徴】大きなお団子頭、白のタートルネックの上に黄色のトップス、緩いパンツに茶色のぺたんこサンダル。
【役柄】死んだ旦那が競馬好きで、競馬は暇つぶし程度に楽しんでいる。初めて競馬に来た今日子にお酒を奢ってあげたり、手持ちがないヘレンに小銭を貸してあげたりと面倒見がいい。旦那の葬式で愛人を追い返してしまったことを若干気に留めている。
【競馬スタイル】つまらないテレビや小説よりかは面白い、くらいの気軽なスタンスだが、馬の名前で馬券を買った今日子に「競馬は“勉強”が大事」 と教えたりもしている。予想屋に馬券を呑まれた苦い過去がある。
 
 

柴田 達(木村 靖司:劇団「ラッパ屋」)*1

【特徴】茶色チェックのハンチング、緑のジャンパー、黒ベストにチェックのパンツ、茶色のブーツ。
【役柄】馬の予想を売っている予想屋。優柔不断な横山や、競馬初心者の今日子に声をかけ、口のうまさで巧みに騙そうするあくどい一面も。
【競馬スタイル】競馬が好きでよく勉強もしているが、予想屋として予想を売ったり、隙のある客から馬券やお金を呑んだりして活動している。
 
 

横山 一郎(市川 しんぺー)

【特徴】黒髪のマッシュルームカット、青いジャケットにパーカー、青のウエストポーチ。
【役柄】馬券を一枚に絞れず何枚も買ってしまうため、たまに当たっても全然儲からない。そんな姿を予想屋の柴田に見つかり、まんまとカモにされる。薄給。ハッキリ物を言う幸子さんのことが苦手。
【競馬スタイル】役柄に同じく。
 
 

杉本 敬三(永島 敬三:劇団「柿食う客」)*2

【特徴】シルクハット、紫のキンキラジャケット、口髭。
【役柄】レースの実況者。豊富な知識と巧みな語彙でもってレースを華やかに盛り上げる。レースの謝罪や場内のゴミ拾いもしてくれる。
 
 
具体的なビジュアルはネットニュースや公式サイトを参考にして頂きたいのですが、登場人物全員が競走馬のようにはっきりと色分けされていることもそうですが、幸子さんのでっかいお団子頭や、サムくんのひねりのきいた前髪、横山さんのマッシュルームカットなど、シルエットを見ただけで誰が誰だかわかるようにもなっているんですよね。これは大きな劇場で上演をする際に遠くの席から見るお客さんを想定していることもそうですし、前回の記事でも話したように今年は「ファンタジー性」が大事にされているので、そのファンタジーをアニメや漫画のキャラクターのような2.5次元舞台っぽさとして表現しているのも面白いです。*3
 
 
登場人物は皆「夜の競馬場でたまたま居合わせた人たち」のため、素性が詳細に書かれていない役が多いです。その空白を演出で埋めたり、今後もしまた上演されることがあった際に演出の方が脚本を書き足すことを選べば、田原や的場以外の登場人物が主役になることも十分にあり得ます。
競馬に対して私は、舞台が決まってから一度だけ競馬場に足を運んで初心者セミナーを受けた程度の超にわか者なのですが、競馬好きな人から見える世界が役を通してなんとなく想像が出来るので、秀逸な脚本ってこういう作品のことを言うんだな、と勉強になりました。
 
また、役と役の組み合わせによって登場人物の見える顔が違ってくるので、競馬に詳しくなくても人間模様から劇を楽しむことが出来ます。
 
 
ということで次は、役同士の関係の見所を紹介させて頂こうと思います。
 
 
 
  • 田原今日子の「婚約者」コンビ
2017年版はこの2人の関係を軸にストーリーが進んでいきます。競馬初心者は今日子を通して競馬の世界を勉強することが出来ますし、また、2人のやり取りをラブコメディとして気軽に楽しむことも出来る、作品の顔となるコンビです。とにかく可愛い。
結婚を控えた男女というただのカップルとはまた違った関係にあるので、人生が大きく変わる節目に立つ2人が、今まで見ることのなかった相手の一面を目の当たりにし、それにどう向き合っていくかもこの作品の見所です。
 
 
  • 柴田横山の「競馬の闇」コンビ
全体的にファンタジーな仕上がりになっている劇にノンフィクション性がちらつくのがこの2人。競馬にハマってお金を使ってしまう怖さを横山、人の弱さにつけ込む悪意が柴田を通して表現されており、ロマンティックでエモーショナルな面だけではなく、競馬の「怖さ」もきちんと描かれています。
決定的な決断を下せない横山に、「絶対にこれがくる」と強い断定を与える柴田の関係は、競馬だけではなく占いや宗教なんかにも置き換えられますね。決められない人にとって、「これ」と言い切ってくれる人の存在は、たとえその決断が間違っていたとしても、「自分の代わりに決めてくれる」だけで縋って頼ってしまいがちです。
自分も何かにハマるオタクという人種なので、横山のように深みにハマる怖さも、悪意を隠して近付かれた場合の無力さとは、他人事のようには思えませんね…。
 
 
  • 田原サムくん的場の「競馬に大熱中」トリオ
柴田・横山組と違って悪意がない分、一層厄介な賭け方をしているこの3人。的場はヘレンのために公金を使い込んでしまい、人生にもう後がない状況に追い込まれているため、一種のハイ状態に陥っています。
競馬場という競馬好きにとっての聖地は、ドルオタに置き換えるとアイドルの現場と同等の場所と考えると、水を得た魚なわけで、ただでさえ浮き足立ってしまうのに、更にぶっ飛んだ状態にある的場の存在によって田原・サムくんもかなりハイになってしまっています。何かに強く打ち込んでいる時って、周りのことが見えなくなりますよね、わかります。勝つために馬券を買うので賭ける金額が日常ではあり得ない金額まで大きくなったり、絶対に使い道のないグッズをお布施とか言って余計に買っちゃったり、現場に行くと金銭感覚がおかしくなりますよね、わかります。そういう「ハイ」な状態って日常ではなかなか味わえないので、今の決断に後悔することとか考えないし、究極後悔なんてきっとしないんです。
他人の介入がなければないほど、勢いは加速していくし、後悔もない。そうしてまた深みにハマっていく。でも、側から見てるとすごく楽しそう。おたくな自分を客観視している気持ちになる3人です。
 
 
  • ヘレン・幸子の「女の郷」コンビ
競馬場には男のロマンが詰まっていますが、女にとってのドラマもあります。
死んだ夫が競馬好きだったために競馬場へと足を運ぶようになった幸子、死んだ友達(元カレ)が競馬好きだったヘレン。競馬に人生を懸けるような真似をする男の気持ちがわからない幸子、競馬の勝ち負けで一喜一憂する男に愛しさを感じているヘレン。幸子の旦那と、ヘレンの元カレは同一人物でした。1人の男を愛した2人の女が、一度は突っ撥ねた人生を、競馬場という非日常の空間が再び繋いでいきます。
愛した男の愛した女同士、でも男はもう死んでいる。不思議な立場にある2人が、不思議な関係を新しく築いていく姿は、競馬という舞台を少し離れたところから、同じ女として勉強になります。
ここに今日子が加わると、愛した男の一夜の相手であるヘレンへの今日子の敵意が剥き出しに描かれており、「生きている」田原と「死んでいる」元カレとの立場の違いが重なって、また違った味わいを齎してくれます。
また、「競馬好きの旦那」という肩書きは、幸子にとっては過去の人ですが、今日子にとっては未来の田原がそれに当たります。もしかすると幸子は、未来の今日子の姿にもなり得るのかと思うと、男のロマンが描かれている訳じゃない、女の郷もこの『サクラパパオー』には濃く深く刻み付けられていることがわかって、脚本の深さに感服するばかりです。
 
 
 
今年は大劇場×ファンタジー×塚田くんの呼応と融合が素晴らしくって、それに関してもまた記事を書く予定なんですけど、とにかく脚本が素晴らしい。誰を主役に置いてもそれぞれのドラマがあって、今回の上演だけでも、誰に感情移入出来るかによって楽しみ方が人それぞれ違ってくるでしょうし、いっそ劇場や演出やキャストを変えてまた上演して欲しい。まだまだ大きくなっていく可能性を無限に秘めた作品になっていて、今もまだ通過点でしかないんじゃないか、もっともっと面白い作品に育っていくんじゃないかと、生まれて初めて脚本に対して伸び代を感じました。
 
 
今日から東京公演が始まり、いくつか地方を回って、今月末には大阪で千秋楽を迎えます。今この瞬間の『サクラパパオー』は、間違いなく今この瞬間でしか観れないと思うので、興味のある方は今年の『サクラパパオー』を是非!おすすめしたいです!!
 
 
本当に素敵な作品なので、その素晴らしさが1ミリでも多く伝えられますようにと念を込めて。最後の記事はいつ書けるかな…!そっちも絶対書き上げるゾ!
最後まで目を通して頂き、ありがとうございました!!
 

*1:脚本・鈴木聡さんの劇団員さん。過去には的場を演じていたそうです。

*2:演出・中屋敷さんの劇団員さん。稽古にその日参加できない方の台詞を代わりに喋っていたそうです。すごい!

*3:ある漫画家さんが「キャラクターを作る際はシルエットだけで誰が誰だかわかるようにしろ」と担当さんに言われた、と話していたのを読んだことがあります。